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「わたし、先生が好きです」
予想もしてない言葉に僕は大いに戸惑った。
僕みたいな冴えない美術教師が自分よりも年下の、まさか教え子に告白されるなんて思ってもいなかったわけで。
「ええと…その…もしかして、いたずら…かな…はは、そうだよね、じゃなきゃ、」
「先生」
彼女の目が僕を捉える。
苦手だ、目を合わせられるのは。逃げられない場所にまで追い詰められたようで。
彼女はじっと僕の目を見つめる。曇りのない、嘘なんかついていない目で。
「ほんとうに、好きなんです」
「ごめん」
だってそんなのは、当たり前の事だ。教師と教え子。もし立場が違っていたとしても、僕は誰かに愛を向けられるなんて事、怖くて受け入れられない。
拒絶の言葉を受け取った彼女は、それでも笑って
「わかってます、だってそうだもんね。どれだけわたしが先生の事が好きだって、絶対実らないってわたし自身わかってるもの。」
錆びきった屋上の手すりがギ、と音を立てた。
「でもそれで終わりなんてわたし嫌だから。ずっと先生の中にいさせてね」
ひらりと彼女は柵を乗り越える。長い脚が踊る。
僕はとことん鈍かった。だから彼女がそんな行為をまるで何でもない事のようにして、それでも尚止める言葉を発する事も、手を差し伸べる事もできなかった。
視界から彼女が消えて、どこか遠くのほうで鳴る鈍い音を聞いて、そこからの記憶は曖昧だ。気がついたら家の玄関でうずくまっていた。
目元が痛い。震えが止まらない。全身が硬直して動かない。
全てなかった事にしたい。彼女についていくんじゃなかった。残って画材の整理なんかするんじゃなかった。
ずるずると壁にもたれた体を横にする。ああ、全部夢だったらいいのに。

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