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​平凡なる日々は過去の泥濘の中で

「暇だな」
二人がそう口を開いたのは同時であった。
ふと顔を見合わせて、はは、と先に笑い出したのはベッドに横になる三気。

それから暫くの沈黙があった。
やがて何か思いついた三気が、
「あー···2番街あたりにでも出掛けるか?」
外出の提案をする。
「断る」
が、ソファーに座る空呂が、怪訝な声色でそれを止めた。

「どうして、二番街になんか」
続けて空呂。そんな所には行きたくない、といった拒絶を含んだ声でそう言う。
「オレもあまり行ったことはないけど、でっかい科学研究所があるんだろ?薬品の店とか、空呂も興味あるかな···って···」
三気は思いつきと好奇心のままに喋っていたが、空呂の放つ圧に、最後まで言葉を紡ぐ事ができなかった。

また、暫くの沈黙があった。
「···薬品なんか、買わなくても自分で調合できる。わざわざ作れるものに金はかけない」
ぼそぼそとぼやく空呂に、
「さっすが天才科学者様だ!考える事が違うねぇ」
と、三気は純粋に誉めただけらしかったが、空呂はその単純な言葉に呆れたのか照れたのか、目線を手元の電子パッドへと戻した。

時計は午後3時を指している。
「···5番街」
最後の会話から5、6秒、沈黙を挟んで、空呂が提案した。
「お、5番街?いいね、今から行けばセントラルの夜景も見れるぞ」
じゃあ、夕飯もそのへんで食べるか、と気が乗ったのか、三気はベッドから体を起こし軽く伸びをした。
「俺、魚がいいな」

そう言いながら支度する空呂は、凪のように穏やかな日常に突然立った大波を、素知らぬ顔で抑える事でいっぱいっぱいだった。
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