top of page
無益な体
昔、子ねずみを飼っていた。
██に我が儘を言って、研究室で生まれたものを持ってきてもらったのだ。
しっかり餌もやって、水も替えた。
それでも、その子ねずみは1ヶ月も経たぬ間に、ある朝目を閉じ冷たくなっていた。
その次は小鳥だった。中庭で羽に怪我を負っていたのを██が保護したのを代わりに世話することになった。
薬を塗って、包帯を替えて、餌をやって、2ヶ月は生きただろうか。
痛々しい傷も、新たに生えた羽毛で隠れてすっかり見えなくなった。
飛べるようになった小鳥は、部屋中を狭しと飛び回り、俺は天井近くの鉄格子から外へと小鳥を放した。
数日後、飛んでいったあの小鳥は、同じ中庭で死んでいた。
「死ぬってどんなに楽な事なんだろう」
ぽつりと漏らした言葉はダクトの排気音にかき消された。
黄緑色の体液にまみれた腕は、ナイフでえぐった傷などまるで元から存在しなかったかのようにきれいに治っている。
籠の中で育った小鳥は、外に放たれたらどうなってしまうのだろう。
仲間を見つけて共に飛ぶのだろうか?
広い空を、自由を喜ぶのだろうか?
違う。
違う、違う、違う、違う。
だって、俺がそうじゃないか。
必要なくなって、あの場所から、籠から放たれて、どうなった?
庇護があってあの小鳥は生きられたのだろう。
その庇護がなくなったから死んだのだろう。
なら、死なない、死ねない、死ぬ勇気もない、俺はどうなってしまうのだろう。
生き地獄。
そんな言葉が、真っ赤に焼き付いて消えず、じりじりと身を焼くようだ。
「はは···」
暗い路地裏で、男は一人諦めたように笑うしかなかった。
bottom of page