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終電逃し.png

​終電逃し

バイクのディスプレイが午前1時を表示している。
あの馬鹿が、また終電逃しやがったのか。

普段家に引きこもりの明日無は、ましてや明かりの無い夜に、重い腰を上げて終電を逃し帰宅できなくなった相棒──暮間という──を迎えに行く事となったのだった。

やがて目に入ったのは柘榴色の非常階段。
暮間が言った場所だ。
フロートバイクの高度を上げ、4階のあたり、そこに暮間はいた。
呑気に電子パッドをいじりながら。

「おい」
ピリピリとした殺気の満ちた声色で声をかけると、暮間は
「ん、ああ、明日無!いやあ悪い!助かったよ」
悪い──などとは微塵も思っていないであろう様子で、ひらひらと手なんか振っていた。

「···で、何で終電逃したわけ?」
「あーーー···それはだねぇ、うん、まあ」
少しだけ考える素振りを見せたあと、暮間は
「時間を忘れるほど遊んじゃった···みたいな?」
そう言い肩をすくめ、笑うのだった。

無言で見つめる明日無から静かに、だが確かに怒気が伝わってくる。
「言いたい事はそれだけか?」
いっそう低い声で明日無は暮間に詰め寄る。
「はは···ああ、わかった。今から3番街のバーに行こう。いい店知ってるんだ」
暮間がそう言ってすぐは、明日無の機嫌は悪いままであったが、「もちろん、俺の奢りで」──そう付け足すと、ころりと態度を変えて

「許す」
そうとだけ呟いて停めたバイクに乗り込むのだった。
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